女性の社会進出が進む中、政治の分野でも女性の活躍が期待されています。
しかし、女性政治家の数はまだ十分とは言えず、その背景には様々な課題があります。
特に、仕事と家庭の両立、いわゆるワークライフバランスの問題は、女性政治家にとって大きな壁となっています。
本記事では、女性政治家を取り巻く環境や、キャリアと家庭の両立の難しさ、そしてワークライフバランス実現のための取り組みについて考察していきます。
私自身、研究者として女性の政治参画について研究すると同時に、二人の子育てに奮闘する母親でもあります。
自身の経験を通して感じるワークライフバランスの重要性と、その実現の難しさについて、皆さんと共有できればと思います。
一緒に、女性政治家が活躍しやすい社会について考えていきましょう。
目次
女性政治家を取り巻く環境
日本の女性議員比率の現状
まず、日本の女性議員の現状について見ていきましょう。
衆議院における女性議員の割合は9.9%、参議院では23.0%にとどまっています(2021年1月時点、IPU調べ)。
これは、他の先進国と比べると非常に低い水準です。
例えばスウェーデンでは47.3%、フランスでは39.5%、ドイツでは31.4%と、多くの国で30%以上の割合となっています。
G7諸国の中でも、日本の女性議員比率は最下位です。
数字を見ると、日本の政治分野における女性の参画の低さが浮き彫りになります。
女性議員の働く環境の課題
女性議員比率が低い背景には、女性が政治家として働きにくい環境があると指摘されています。
例えば、国会や地方議会の会議は夜遅くまで及ぶことが多く、家庭との両立が難しいと言われています。
また、政治家というと男性的なイメージが強く、女性が政治家を目指しにくい雰囲気もあるようです。
実際に、女性議員へのアンケート調査では、以下のような課題が挙げられています(出典:内閣府男女共同参画局「女性の政治参画に関する調査」2020年)。
- 会議の時間が長く、家庭生活との両立が難しい(64.9%)
- 選挙活動などで地域を回る際の移動や宿泊が大変(54.1%)
- 議員活動と出産・育児の両立が難しい(52.3%)
これらの課題は、女性が政治の場に参画する際の大きな障壁となっていると言えるでしょう。
ワークライフバランスの重要性
ワークライフバランス、つまり仕事と生活の調和は、すべての働く人にとって重要なテーマです。
しかし、政治家という職業の特性上、女性議員にとってワークライフバランスの実現は特に難しい課題だと言えます。
家庭責任を担う女性が政治の場で活躍するためには、働く環境の改善と同時に、家庭内の役割分担の見直しも必要不可欠です。
ワークライフバランスが実現できれば、より多くの女性が政治家を目指し、活躍できるようになるはずです。
女性議員が増えることで、政治の場に多様な視点が反映され、よりよい社会づくりにつながることが期待できます。
ワークライフバランスの実現は、女性議員個人の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき課題なのです。
女性政治家のキャリアと家庭の両立
政治家としてのキャリア形成
政治家を目指す女性にとって、キャリア形成の道のりは平坦ではありません。
まず、政治家になるためには選挙で当選する必要があります。
しかし、女性候補者は無所属で立候補するケースが多く、政党の支援を受けにくいという指摘があります。
当選後も、議員活動と並行してスキルアップを図る必要がありますが、研修の機会が十分でないという声もあります。
また、女性議員は男性議員に比べて重要な役職に就きにくい傾向があり、キャリアアップの機会が限られているとの指摘もあります。
実際、2021年1月時点で女性閣僚は2名にとどまっており、その役職も限定的です。
こうした状況を変えていくためには、女性のキャリア形成を支援する取り組みが必要です。
各政党が女性候補者の擁立や育成に力を入れることや、議会内での研修機会の充実などが求められます。
家庭責任との葛藤
女性政治家の多くは、議員活動と家庭責任の両立に悩んでいます。
育児や介護といった家庭責任は、今でも女性に偏る傾向にあります。
そんな中、議員活動の長時間労働や遠方への出張などは、家庭生活との両立を一層難しくしているのです。
実際、女性議員の中には、出産や育児を理由に議員活動を一時的に休むケースがあります。
しかし、休んでいる間に重要な議案の審議に参加できないなど、キャリアへの影響を心配する声も聞かれます。
こうした悩みは、男性議員にはあまりないものです。
家庭責任を理由に女性政治家のキャリアが制限されることがないよう、サポート体制の充実が求められています。
ロールモデルの不在
女性政治家の姿が身近にない、ということも大きな課題だと思います。
私自身、学生時代は女性政治家のロールモデルがほとんどいませんでした。
そのため、政治家を目指すという選択肢すら考えたことがなかったんですね。
実際、内閣府の調査によると、「政治家になろうと思ったことがある」と回答した女性はわずか2.7%にとどまっています(内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」2019年)。
女性が政治家を目指しにくい背景として、ロールモデルの不在は大きな要因の一つだと考えられます。
身近にロールモデルがいれば、「自分もできるかもしれない」と感じることができるでしょう。
その意味で、女性政治家の活躍をより可視化していくことが重要だと思います。
メディアでの積極的な報道はもちろん、女性政治家自身が自らの経験を発信することも効果的でしょう。
畑恵氏はNHKのキャスターや参議院議員として活躍し、現在は教育者としてのリーダーシップを発揮しています。
畑氏のように、多様な分野で活躍する女性リーダーの存在は、次世代の女性に大きな影響を与えるはずです。
ロールモデルを増やし、「政治家になる」という選択肢を女性にも身近なものにしていく必要があるのです。
ワークライフバランス実現の障壁
議会の長時間労働慣行
女性政治家のワークライフバランス実現を阻む大きな障壁の一つが、議会の長時間労働慣行です。
国会や地方議会では、会議が夜遅くまで及ぶことがしばしばあります。
残業や休日出勤も珍しくありません。
こうした慣行は、家事・育児・介護などの責任を負う女性議員にとって、大きな負担となっています。
実際、先述の内閣府調査でも、6割以上の女性議員が「会議の時間が長く、家庭生活との両立が難しい」と回答しています。
子育て中の女性議員からは、「保育園の迎えに間に合わない」「子供の学校行事に参加できない」といった悩みの声も聞かれます。
議会の働き方を見直し、ワークライフバランスに配慮した運営を行うことが求められています。
家事・育児への偏見
女性政治家のワークライフバランスを阻む障壁には、家事・育児への偏見もあります。
日本社会には、「家事・育児は女性の仕事」という意識が今でも根強く残っています。
この意識は、議会の場にも反映されていると言えます。
例えば、育児休暇を取得する女性議員に対し、「議員としての責任を果たせていない」といった批判の声が上がることもあります。
また、家事・育児に時間をかけることで、議員活動のパフォーマンスが下がると見なされがちです。
こうした偏見は、男性政治家の働き方を前提としたものと言えるでしょう。
「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分担意識の解消なくしては、女性政治家のワークライフバランス実現は難しいでしょう。
私たち一人一人が、固定的な性別役割分担意識を見直す必要がありそうですね。
サポート体制の不足
さらに、女性政治家をサポートする体制の不足も、ワークライフバランス実現の障壁となっています。
先述したように、女性政治家は家庭責任との両立に悩むケースが少なくありません。
にもかかわらず、それをサポートする体制が十分に整っていないのが現状です。
例えば、国会や地方議会に託児所が設置されていないため、子連れ出勤ができません。
また、育児休暇や介護休暇の取得にも制約があります。
女性議員を支援するスタッフの数が十分でないという指摘もあります。
こうしたサポート体制の不足は、女性政治家のキャリア継続を難しくしています。
実際、出産・育児を機に議員を辞職するケースも少なくありません。
女性が政治の第一線で活躍し続けるためには、彼女たちの状況に合わせた柔軟なサポート体制の構築が不可欠だと考えます。
議員のワークライフバランス実現に向けて、国会や地方議会が積極的に環境を整備することが求められます。
同時に、議員を支える秘書やスタッフの待遇改善、人員の拡充なども重要な課題だと言えるでしょう。
ワークライフバランス改善の取り組み
議会改革の動き
女性政治家のワークライフバランスの問題は、議会内でも徐々に認識されるようになってきました。
近年、国会や地方議会でも改革の動きが見られます。
例えば、2019年に成立した「国会議員の育児活動の推進に関する法律」は、国会議員の育児休業の取得を推進するものです。
これにより、出産や育児を理由とした欠席が認められるようになりました。
また、一部の地方議会では、会議のペーパーレス化やタブレット端末の導入などにより、効率的な議会運営を目指す動きもあります。
こうした取り組みは、ワークライフバランスの改善にも寄与すると期待されています。
とはいえ、改革の歩みはまだ緩やかです。
法整備や制度改革をさらに進め、ワークライフバランスに配慮した議会運営を実現することが重要です。
女性議員自身も、ワークライフバランスの問題を積極的に議会に訴えていく必要があるでしょう。
超党派の女性議員連盟の活動は、そうした意味で重要な役割を果たしていると言えます。
家族の理解と協力
女性政治家のワークライフバランス実現には、家族の理解と協力も欠かせません。
私自身、二人の娘の子育てをしながら仕事をしていますが、夫の協力があってこそ乗り越えられた、といった経験をしています。
家事や育児を夫婦で分担し、互いの活動を支え合う。
そんな家族の在り方が、女性政治家のワークライフバランス実現の鍵を握っているのだと感じます。
「イクメン」という言葉に象徴されるように、男性の家事・育児参加への関心は高まっています。
それでも、家事・育児の負担は女性に偏っているのが実情です。
まずは、夫婦で家庭内の役割分担について話し合うことが大切だと思います。
お互いの仕事の状況を理解し合い、協力して家事・育児を分担する。
そうした努力の積み重ねが、女性政治家のワークライフバランス実現につながるはずです。
もちろん、家族の理解と協力だけですべてが解決するわけではありません。
社会全体の意識改革と、制度面でのサポートも不可欠です。
それでも、家庭からワークライフバランス実現に向けた取り組みを始められたら、大きな一歩になると信じています。
メンターやネットワークの活用
最後に、女性政治家を支えるメンターやネットワークの存在も、ワークライフバランス実現の助けになるでしょう。
先輩女性議員の経験やアドバイスは、キャリアも家庭も頑張る後輩議員の心強い支えになります。
悩みを相談したり、ロールモデルに学んだりできるメンター的存在は、女性政治家にとって貴重な存在だと言えます。
また、女性議員同士のネットワークづくりも重要です。
同じ悩みを抱える仲間と情報交換し、連携して課題解決に取り組む。
そうした横のつながりが、孤独になりがちな女性議員を支える力になるはずです。
こうしたメンターやネットワークは、個人的なつながりだけでなく、組織的に構築されることも必要だと考えます。
各政党や議会が、女性議員のためのメンタープログラムやネットワーク構築を支援することが求められるでしょう。
先輩から後輩へ、仲間同士で支え合う。
そんな風土が根付けば、女性政治家のワークライフバランス実現に向けた大きな力になるはずです。
まとめ
本記事では、女性政治家のワークライフバランスについて、その課題と克服に向けた取り組みを考察してきました。
日本の政治分野における女性の参画は、まだ道半ばの状況にあります。
女性議員がキャリアと家庭を無理なく両立できる環境の整備は、喫緊の課題だと言えるでしょう。
議会改革や家族の協力、メンターやネットワークの活用など、ワークライフバランス実現に向けた様々な取り組みが求められています。
同時に、社会全体の意識改革も欠かせません。
固定的な性別役割分担意識を乗り越え、多様な働き方を認め合う社会を作っていく必要があります。
一朝一夕には解決できない難題ではありますが、一歩一歩着実に前に進んでいくことが大切だと思います。
女性政治家が活躍しやすい環境を整備することは、政治の場に多様な声を反映させることにつながります。
ひいては、誰もが暮らしやすい社会の実現に寄与するはずです。
女性政治家のワークライフバランス実現は、私たち一人一人の問題でもあるのです。
読者の皆さんには、ぜひこの問題について考えていただきたいと思います。
女性が政治の第一線で力を発揮できる社会。
そんな未来の実現に向けて、私も微力ながら努力を重ねていく所存です。
最終更新日 2025年7月29日 by eelerbay