ファッションの世界では、かつて明確に分かれていたハイエンドとストリートの境界線が、今や美しくブレンドされている。
私がファッション誌「TOKYO EDGE」の編集部にいた頃、ストリートウェアといえば「反骨精神」の象徴だった。
しかし今、その反骨精神は高級ブランドの血を引き継ぎ、新たな形で進化を遂げている。
Balenciagaのスニーカーを履きながらSupremeのTシャツを着る。
かつては考えられなかったこのミックススタイルが、今や最先端のファッションシーンを席巻している。
本記事では、10年以上にわたってストリートファッションシーンを追い続けてきた筆者が、ハイエンドブランドをストリートスタイルに取り入れる極意を徹底解説する。
「高いモノを買えば良いというわけではない」という当たり前の真実と向き合いながら、本当の意味でクールなスタイルを身につける方法を探っていこう。
ハイエンドストリートファッションの世界観
ハイエンドとストリートの融合は、単なるトレンドを超えた文化現象となっている。
この現象を理解するには、両者の背景を掘り下げる必要がある。
ハイエンドブランドが生む特別感
ハイエンドブランドには、長い歴史と確固たるアイデンティティがある。
Louis Vuittonは167年以上の歴史を持ち、その職人技は世代を超えて受け継がれてきた。
Gucciのホースビット金具には、ブランドの馬具製造としての起源が込められている。
これらの歴史的背景を知ることで、単なる「高いブランド」から「価値あるブランド」への認識転換が生まれる。
高品質な素材選びも、ハイエンドブランドの重要な特徴だ。
イタリア製の上質なレザーや、フランス製の繊細なシルクなど、素材へのこだわりが特別感を生み出している。
デザイナーの哲学や思想を理解することで、そのアイテムを着る意味も深まる。
ストリートカルチャーとの融合
ストリートファッションの本質は、常に「現場」から生まれてきた。
1980年代のNYのスケーターたちが着ていたルーズなTシャツは、機能性と反権威の象徴だった。
HIP-HOPムーブメントから生まれたバギーパンツやゴールドチェーンは、音楽とファッションの不可分な関係を示している。
「キャップを後ろ向きにかぶる」という何気ないスタイリングにも、若者たちの反骨精神が込められていた。
現代では、Virgil AblohのOff-Whiteのように、ストリートの文脈を深く理解したデザイナーがハイエンドの世界に登場している。
「アツい」「攻めている」といったストリート現場の言葉が、高級ブランドのショールームでも飛び交うようになった。
この融合は、単なるトレンドではなく、ファッションの民主化と多様性の象徴なのだ。
近年では、アジア発のブランドも注目を集めており、HBSのハイエンドストリートウェアがベトナム・ハノイから登場し、ユニセックスなデザインと手頃な価格帯で日本でも人気を博している。
ストリートコーデを支える基本テクニック
ハイエンドアイテムをストリートスタイルに取り入れるには、基本的なスタイリングテクニックの習得が不可欠です。
以下に、誰でも実践できる具体的なテクニックを紹介します。
シルエット・レイヤリングの巧みな活かし方
ストリートスタイルの要、それはシルエットです。
オーバーサイズのアイテムを取り入れる際は、全身をルーズにするのではなく、トップスがビッグならボトムスはスリムに、といったバランスを意識しましょう。
例えばBalenciagaのオーバーサイズのフーディを着るなら、下はスキニーデニムやテーパードパンツで引き締めると洗練された印象になります。
レイヤリングは3層が基本と考えましょう。
1. インナーレイヤー
- 肌に直接触れる薄手の素材
- 白Tシャツやタンクトップなどシンプルなものを選ぶ
2. ミドルレイヤー
- コーデの主役となる部分
- ブランドロゴやデザイン性の高いアイテムを配置
3. アウターレイヤー
- 全体のシルエットを決定づける重要な要素
- 季節に合わせてジャケットやコートを選択
ハイエンドブランドのアイテムは、この3層の中でひとつだけ取り入れるのが初心者には扱いやすいでしょう。
カラーコーディネートのポイント
ハイエンド×ストリートでは、色使いがスタイルの成否を分けます。
初心者におすすめなのは、ベースをモノトーン(黒・白・グレー)で固め、ハイエンドアイテムを差し色として使う方法です。
例えば黒のワイドパンツと白のTシャツというシンプルな組み合わせに、Gucciの赤いスニーカーを合わせるなど、焦点を絞ったスタイリングが効果的です。
高級感を損なわないカラー選びのポイントは以下の通りです:
- 蛍光色やマルチカラーは使いすぎない
- 同系色での統一感を意識する
- アースカラー(ベージュ、カーキ、ブラウン)は高級感を演出しやすい
- パステルカラーと黒の組み合わせは洗練された印象に
シューズ&アクセサリーの存在感
足元はコーディネートの要です。
ハイエンドスニーカーを取り入れる場合、パンツの裾はロールアップするかクロップド丈にして、シューズの存在感を際立たせましょう。
コンバースやバンズなどのストリート定番シューズに、Diorやルイ・ヴィトンなどのハイエンドアクセサリーを組み合わせるという逆転の発想も効果的です。
アクセサリーは「少なく、大きく」が鉄則です。
腕時計ひとつでも、良質なものを選べばコーディネート全体の格を上げてくれます。
ロゴアイテムを選ぶ際は、控えめな主張のものを選び、全身ロゴで固めるのは避けましょう。
「本当に価値のあるブランドアイテムは、遠くからでも分かる」
これは私がストリートシーンを取材する中で、あるデザイナーから聞いた言葉です。
ハイエンドブランドの選び方と取り入れ方
ハイエンドブランドをストリートスタイルに取り入れるには、単に高価なものを買えばいいわけではありません。
ブランドの背景を理解し、自分のスタイルに合ったアイテムを選ぶことが大切です。
以下では、その具体的な方法を図解しながら説明します。
ブランド背景リサーチの大切さ
ブランド選びのアプローチ | メリット | デメリット |
---|---|---|
トレンド重視 | 最新のスタイルを楽しめる | 長期的な価値が不安定 |
歴史重視 | 時代を超えた価値がある | 保守的に見える可能性 |
デザイナー重視 | 独自の美学を身につけられる | 個性が強すぎる場合がある |
コレクション重視 | 一貫したストーリーを表現できる | 入手困難なことがある |
最も重要なのは、デザイナーの思想や哲学を理解することです。
例えば、Raf Simonsの作品には若者のカウンターカルチャーへの共感が込められています。
Off-WhiteのVirgil Ablohは、ストリートとハイファッションの架け橋を意識して創作していました。
これらの背景を知ることで、単なる消費ではなく、ブランドのストーリーの一部になる喜びが生まれます。
アイテム選択のコツ
ハイエンドブランドを取り入れる際は、以下のカテゴリー別に考えると選びやすくなります。
アウター
高級感が最も出やすく、長く使える価値のあるカテゴリーです。
シンプルなデザインの黒やネイビーのジャケットやコートは、様々なストリートスタイルに合わせやすいでしょう。
スニーカー
ストリートファッションの象徴的アイテムです。
デザイン性と機能性のバランスが取れたモデルを選ぶと、長く愛用できます。
バッグ
日常的に使用でき、コーディネートのアクセントになります。
ロゴが控えめなデザインを選ぶと、様々なスタイルに合わせやすいでしょう。
小物
財布やベルトなどの小物は、比較的手が届きやすい価格帯のものも多いです。
日常的に使うアイテムなので、実用性も重視して選びましょう。
価格帯との向き合い方
ハイエンドブランドは確かに高価ですが、「価格÷着用回数」で考えると、長く使えるアイテムこそが真の価値があります。
例えば、10万円のコートを5年間着れば、1回あたり約500円程度の投資と考えることができます。
一方、トレンドに左右されやすい派手なデザインのアイテムは、数シーズンで着なくなる可能性も考慮すべきです。
購入を検討する際は、以下の点を自問自答してみましょう:
- 3年後も着たいと思えるデザインか?
- 自分のワードローブの他のアイテムと合わせやすいか?
- このブランドの哲学や美学に共感できるか?
- メンテナンスや保管に特別なケアが必要か?
これらの質問に肯定的に答えられるアイテムこそ、投資する価値があるでしょう。
実践!ハイエンドストリートコーデ事例
理論を学んだところで、実際のコーディネート例を見てみましょう。
これから紹介する事例は、私が取材や撮影の現場で実際に目にした、リアルなストリートスタイルです。
王道スタイル:ラグジュアリースニーカー×ビッグT
渋谷のスケートパークで出会った23歳のTAKEさんは、BalenciagaのトリプルSスニーカーをメインに据えたスタイルを披露していました。
「足元にインパクトを置いて、他はシンプルにまとめる」というTAKEさんのスタイリングは、まさに王道です。
彼のコーディネートの内訳は以下の通りです:
- トップス:無地のオーバーサイズ白Tシャツ(UNIQLO U)
- ボトムス:ブラックデニム(Levi’s 502)
- シューズ:BalenciagaトリプルS(ベージュ)
- キャップ:シンプルな黒キャップ(NewEra)
- アクセサリー:シルバーチェーンネックレス(古着)
このスタイルが効果的な理由は、「焦点の一点集中」にあります。
高価なスニーカーを際立たせるために、他のアイテムはあえてシンプルにしています。
TAKEさんは「ブランドロゴが全身に散らばっているよりも、一箇所にこだわりを見せる方がかっこいい」と語ります。
個性を引き立てる:プレミアムアウター×ストリート小物
原宿の裏通りでスナップした28歳のMIKIさんは、BurberryのトレンチコートをMA-1ジャケットのように着こなしていました。
「ハイブランドを型破りに着こなすことで、自分らしさを表現する」というのがMIKIさんのポリシーです。
彼女のスタイリングは以下のようになっています:
- アウター:Burberryトレンチコート
- インナー:ヴィンテージバンドTシャツ
- ボトムス:ダメージデニム(古着)
- シューズ:Dr.Martensの8ホールブーツ
- バッグ:小さめのSupremeショルダーバッグ
- アクセサリー:多数のシルバーリング
このスタイルの妙は、ラグジュアリーとストリートの対比にあります。
格式高いトレンチコートを、あえてカジュアルなアイテムと組み合わせることで、両方の良さを引き出しています。
「ルールを知った上で、それを破る」というストリートの精神がここに現れています。
アクセサリーでさらに上級者に
表参道で見かけた32歳のRYOさんは、シンプルな黒コーデに、CartierのLoveブレスレットを合わせていました。
「小さなアクセサリーこそ、本当の価値を知る人だけが気づく贅沢」というRYOさんの言葉が印象的です。
彼のコーディネートは:
- 全身:黒を基調としたモノトーンコーデ
- トップス:黒のモックネックカットソー
- ボトムス:黒のワイドパンツ
- シューズ:Common Projectsの白スニーカー
- アクセサリー:CartierのLoveブレスレットとJustinDavisのシルバーリング
このスタイルの特徴は、「控えめな贅沢」です。
全体をシンプルにまとめつつ、知る人には分かる上質なアクセサリーを取り入れています。
RYOさんは「ストリートもハイエンドも、結局は自分らしさを表現する手段。どちらかに偏るのではなく、自分の感性で選ぶことが大切」と語ります。
まとめ
ハイエンドブランドとストリートファッションの融合は、現代のファッションシーンにおける重要なムーブメントとなっています。
この記事で紹介した内容をまとめると:
- ブランドの背景や歴史を理解することで、単なる消費を超えた深い満足感が得られる
- シルエット、レイヤリング、カラーコーディネートの基本を押さえることが重要
- 全身をハイブランドで固めるよりも、ポイントで取り入れる方が洗練されたスタイルになる
- 長く愛用できるアイテムを選ぶことで、結果的にコストパフォーマンスが高くなる
- 自分らしさを表現するツールとして、ブランドを活用する姿勢が大切
私がファッション誌の編集者として現場を歩いていた頃から今日まで、常に感じてきたのは「本当のスタイルは知識から生まれる」ということです。
ブランドの背景や文化的文脈を理解することで、単なる「高いモノ」から「価値あるモノ」への認識の転換が起こります。
最後に、ファッションに絶対的な正解はありません。
この記事で紹介した知識やテクニックを参考にしながらも、最終的には自分自身の感性を信じて、あなただけの「ハイエンド×ストリート」スタイルを築いてください。
ストリートの自由さとハイエンドの品質が融合したとき、そこに新しいファッションの可能性が広がっているのです。
最終更新日 2025年7月29日 by eelerbay